多重知能理論と自己啓発

アメリカの認知心理学者のハワード・ガードナーは、人には8つの知能があるという「多重知能の理論」を提唱している。

8つの知能とは、以下の通りだ。

①言語的知能:言葉への感受性。目標を達成する際に言語を用いる能力

②論理数学的知能:問題を論理的に分析したり、数学的に処理する能力

③音楽的知能:音楽的パターンを取り扱う能力

④身体運動的知能:問題解決のために身体を使う能力

⑤空間的知能:広い空間のパターンを認識して操作する能力

⑥博物的知能:世界を分類して理解する能力

⑦対人的知能:他人の意図や欲求を理解する能力

⑧内省的知能:自分自身を理解し、自分の生活を効果的に統制する能力




現代は、言語的知能と論理数学的知能を持っている者が優位に立てる世の中だ。

なぜなら、この2つの知能が他人より少し優れているだけで、それなりの大学、それなりの会社に入ることができ、収入に直結するからだ。

しかし、他の知能は他人より圧倒的に優れていないと、評価されない場合が多い。音楽的知能が少し優れている人が、音楽だけで食っていけるかというと厳しいだろう。

では、突出した知能がない人は、言語的知能と論理数学的知能を鍛えればいいのかというと、そうでもない。

「行動遺伝学」という学問は、知能はほぼ遺伝で決まっているという結論を導き出しているからだ。もともと持っていない能力を開発することはできない。

このことから、「努力すればできる」という大半の自己啓発書が説いていることは無意味ということになる。

残念ながら「努力してもできない」のだ。

特に、適性のないことを努力することは、改善の見込みが全く見えないことから、自己嫌悪の底なし沼にはまることになり、害悪でしかない。

じゃあもう諦めるしかないのか。

少し前までならそうだった。

今はネットの普及により、世界中の情報にアクセスできるようになった。そのおかげで、自分の得意なことを評価してくれるニッチな分野に出会いやすくなった。

人は誰しも得意なことがある。(他人より優れているかは別として)
そして得意なことなら努力することが苦にならない。

そうやって得意なことに打ち込んでいれば、それを評価してくれる人が世界のどこかに必ずいる。

別にそれで大成功して大金持ちになる必要もない。
だってそんなことは努力してもできないのだから。

得意なことを収益化する、ちょっとした工夫があればいい。

・・・

この、自分の能力を理解し、得意なことを生かすことで、ニッチな分野で小さな成功を収めるというのは、非常に合理的であり、成功するための唯一の手段であることから、これからの自己啓発の標準になっていくのであろう。

だがここで1つ問題が出てくる。

自分の能力を理解するには、最初に挙げた8つの知能の内、内省的知能が必要になる。
知能が遺伝で決まるのなら、この内省的知能も遺伝で決まり、努力で開発することもできない。

自分の中で相対的に得意なことがあっても、内省的知能がなければそれに気づくこともできない。

得意なことを生かすにも知能がいるなら、結局「できない人はできない」ということになる。

「バカは死ななきゃ治らない」ということわざがあるが、この身もふたもないことわざがこの世の真理なのだろうか。


参考図書:

0 件のコメント :

コメントを投稿